長野地方裁判所諏訪支部 昭和57年(ワ)41号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
<証拠>を総合すると、(一)原告は、昭和五一年四月初旬ころ、宮下に金員を貸付けるにあたり、被告ら三名に請求原因1のような内容の連帯根保証債務を負担してもらう意思で、個別に被告らに直接会つて甲第二号証の連帯保証人欄への署名捺印を求めたが、その際、原告は改めて自分の方から被告らに甲第二号証の意味内容、各条項や文言の意味するところ等について説明するようなことはせず、被告らの方からも何らの質問もなかつたこと、(二)被告ら三名は、宮下から「原告から二〇万円ばかり金借するので、その保証人になつて欲しい」旨依頼され、宮下の原告に対する右程度の金額の借金の連帯保証をする意思で、甲第二号証の記載内容・個々の条項の意味するところ等については全然吟味しないまま、同文書の連帯保証人欄に署名捺印したこと、(三)すなわち、請求原因1ないし甲第二号証に関しては、原、被告ら双方は双方でこれから締結する保証契約の内容について話合つたり、折衝したりするようなことは全然しないで、いきなり同文書に署名捺印したものであること、以上の事実を認めることができ<る。>
そうだとすると、原告と被告ら三名とは、甲第二号証の記載内容を合意内容とする契約を締結したものと認めるのが相当である。そして、同文書の解釈、すなわち双方の合意内容の確定にあたつては取引の通念に従い客観的にこれをなすべきであつて、相手方に対して表示されなかつた内心の意思の如きは直ちには考慮に入れるべきではない。
そこで、このような観点から甲第二号証の記載内容について吟味すると、被告ら三名が、昭和五一年四月八日から一〇年間(追伸15項)、主債務者が原告との取引によつて負担する一切の債務を連帯保証する(追伸16項及び主たる債務の種類・内容をうかがわせる冒頭の記載等)旨の記載があることは読み取れるが、同文書一枚目表の債権極度額五〇〇万円の記載は、主たる債務者宮下が原告のため設定すべき根抵当権の債権極度額の記載と読めこそすれ、連帯根保証人である被告らの保証の極度額を示すものであるとは到底読み取れない。また、同文書三枚目裏の「第1項追項」にしても、これは、第1項に記載された右根抵当権の被担保債務に「第1項追項」記載の債務を加える趣旨の記載であつて、同記載の債務が、被告らの負う連帯根保証債務の被保証債務であることを明らかにした記載であるとは到底解されない。
そうだとすると、被告ら三名は原告に対し、文言上は、昭和五一年四月八日から一〇年間にわたり、主たる債務者宮下が原告に対して負担する一切の債務を無限に保証したことになるが、<証拠>を総合すると、宮下が、その営む建築請負業の資金に窮し、原告に二〇万円の金借を申し入れたところ、原告から保証人を立てるよう要求されたので、被告ら三名に依頼して保証人になつてもらつたものであること、被告らが宮下の保証をしたのは全くの好意からであつて、宮下と被告ら三名とは特別の縁故関係にあつたわけではなく、また事業等の利害関係で強く結びついていたわけでもなかつたこと、当時、被告林は零細な豆腐屋、被告名取も零細な建築塗装業者、被告浅川は一介の大工の身で、いずれも他人の多大の債務を保証弁済しうるような経済力はない者達であつて、このことは原告も承知していたことが認められるところ、これら本件保証契約締結に至る経緯や原告も承知していた被告らの経済力等、前記認定のように、原告の考えでは、甲第二号証は被告らに多大の保証責任を負わせる内容の文書であるにもかかわらず、被告らはその内容についてろくに確かめもしないで署名捺印したものであることは、原告も良く承知していること、取引通念及び債権関係を支配する信義則等に照らせば、被告ら三名が甲第二号証の連帯保証人欄に署名捺印することによつて保証した主たる債務の種類・金額は、原告が宮下の弁済能力等を考慮しつつ同人からの回収が可能と踏んで貸付けた貸金、受取手形不渡時の償還請求権等程度のもの(乙第一二号証の判決で認容された種類・内容、金額の債権程度のもの)と解するのが相当であつて、原告が請求原因2、3で主張しているような、主たる債務者宮下が、被告ら三名の全然知らない第三者(この事実は乙第一ないし第三号証によつて認める)のために原告に対して負担した多大の根保証債務の如きものが、右原、被告ら間で締結された保証債務の被保証債務に属するものとは到底認めることができない。 (濱井一夫)